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東京高等裁判所 昭和45年(行コ)12号 判決 1970年9月30日

東京都文京区大塚五丁目四〇番一八号

控訴人

株式会社日強製作所

右代表者代表取締役

高橋省吾

右訴訟代理人弁護士

岡部勇二

同都千代田区霞が関一丁目一番一号

被控訴人

右代表者法務大臣

小林武治

右指定代理人

広木重喜

鳥居康弘

掛礼清一郎

中川謙一

右当事者間の当庁昭和四五年(行コ)第一二号法人税課税処分取消請求控訴事件について、同年六月二四日終結した口頭弁論に基づき、つぎのとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し、金三六七、〇〇〇円およびこれに対する昭和四四年七月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決ならびに仮執行の宜言を求め、被控訴代理人は主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張ならびに証拠の提出、援用および認否は、左記のほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

被控訴代理人は、控訴人がその主張のとおり税理士および弁護士に報酬を支払つたことを認める、と述べた。

理由

当裁判所もまた、控訴人の本訴訟請求を失当として排斥すべきものと判断する。その理由は、つぎに附加するほかは、原判決と同一であるから、右理由記載を引用する。

附加する点は次のとおりである。

旧法人法九条八項は、同法に定められた場合のほかは、所得の計算に関し必要な事項の定めを命令に委任し、これに基づき、同法施行規則一〇条の四は、法人が各事業年度においてその役員に対して支給した賞与の額は、当該事業年度の所得の計算上これを損金に算入しないが、当該法人がその使用人としての職務を有する役員に対し、当該職務に対する賞与を使用人に対する賞与の支給時期に支給した場合において、当該賞与の額のうち、当該職務に対する賞与として相当と認められる金額については、損金に算入するものとし、さらに同規則一〇条の三、六項、四号は同族会社の役員のうち、その会社が同族会社であるかどうかの判定の基礎となる株主もしくは社員、またはこれらの者の同族関係者であるものは使用人としての職務を有する役員より除外する旨を規定している。

これらの規定の趣意とするところは、法人の役員は使用人と違つて法人と委任関係に立ち、その経営者の地位にあつて、その業務の運営に関与するものであるから、法人の役員に対し支給されるべき賞与は、利益の処分によつて賄われるべきで、事業経費でなく、したがつて損金に算入すべからざるものであるとの建前を採り、同族会社の場合においても、同族会社であるかどうかの判定の基礎となる株主もしくは社員、またはこれらの者の同族関係者は、本来会社の経営に事実上参加する地位にあつて、これを他の法人の使用人としての職務を有する役員、すなわち形式上役員の名称を与えられているものの、その実は使用人としての業務のみに携わる役員とは同視することができないから、本来の役員と同一の取扱をすべきものというにあると解せられる。したがつて、同族会社の場合に関する前記の規定が、その前提において具体的な同族会社の実態に適合しないために妥当性を欠く場合があつても、それは立法ないし運用上の改善にまつべきであつて、これを理由として右規定自体を非合理かつ違法であるとは断じがたい。(ちなみに、旧法および旧施行規則の根本的建前は改正法(昭和四〇年法律第三四号)および改正施行規則(昭和四〇年政令第九七号)にもそのまま承継されている。)

よつて、本件控訴は理由がないから、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 仁分百合人 判事 瀬戸正二 判事 土肥原光圀)

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